“暗黒意識"を主題にした『夜の三部作』、愛と孤独の様相を正面から描いたエッセイ『愛の試み』。福永文学の精髄に迫る
第3巻について 目次 資料
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福永武彦電子全集第3巻について
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第3巻 先鋭な実験『夜の三部作』、そして『愛の試み』
Ⅰ.『夜の三部作』
人間の内部で不気味に蠢き、内側から人を突き動かそうとする「暗黒意識」を主題に書かれた「冥府」、「深淵」、「夜の時間」からなる『夜の三部作』。
死後の世界を舞台にした「冥府」、敬虔なクリスチャン女性と本能のまま生きる男との凄絶な様相を描いた「深淵」、男女の三角関係を過去と現在が交差する時間軸で描く「夜の時間」は、それぞれに福永の死生観が滲み出た先鋭な中・短篇である。
また、ほぼ同時期に発表された短篇「水中花」、「時計」、「遠方のパトス」、「河」も併録する。
これらの作品で福永が目指したのは、日常とは別次元―暗黒意識を抱えた人間―の確固とした内面世界を構築することであり、そのためには、その世界に相応しい形式と文体が決定的に重要なのであり、象徴主義をはじめ様々な文学伝統に学び、新たな形式と文体の創造を試みた。既存の小説形式では捉えられない人間の重層的内面を、新しい形式と文体によって掴もう、発見しようとしたのである。
特に意を用いたのが、①すべてを書き込まずに空白(謎)を作ることと、②読者の想像力を刺戟する喚起的文体を用いることである。
Ⅱ.『愛の試み』
自らの内面を深く見詰め、思索の跡を刻みつけたエッセイで、愛と孤独の様相を正面から論じると同時に、自作自解の側面も持つ。エッセイと緊密に結びついた挿話(掌の小説)より成る。「愛の終り」は、新潮文庫や同全集に未収録。
『愛の試み』は、初刊版と決定版(新潮社版全集第4巻)の2種を重複を厭わず全文収録し、同時にその増補改訂版たる『愛の試み愛の終り』も、重複部分も含めて初刊版全文を収める。更にその内『愛の試み』決定版に未収録の「愛の終り」と掌篇「見知らぬ町」一篇を、新字・新かなで併載する。
『愛の試み』を『夜の三部作』と同じ巻に収めた理由は、第1に、執筆時期が近いこと。第2に、暗黒意識を主題とした「夜の三部作」と、愛と孤独の様相を正面から論じたエッセイ「愛の試み」は、いわば表裏の関係にあること。孤独といい愛といい、どちらも人間存在の存立条件である。それなくして人間はない。「希望がなければ存在もないのだ」という「冥府」の「僕」の言葉は、「愛がなければ存在もないのだ」と言い換えられよう。「夜の三部作」の裏主題とも言うべき愛の様相を、内省的な文体で書き記した「愛の試み」は、この巻に掲載するのが最も自然である。
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