福永自ら処女作と呼ぶ『小説風土』を初出版から決定版まで全4種を完全収録。巻末附録「本文主要異同表」により筆者苦心の手入れ痕も確認できる。
第2巻について 目次 資料
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福永武彦電子全集第2巻について
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第2巻 『小説風土』、ロマンの創造
長篇『小説風土』は、1941年大学を卒業した夏に起筆され、戦後、1957年に完全版として全体が発表されるまでに16年の歳月を要した福永武彦の処女作である。
当巻では、その『小説風土』の初出版から決定版まで全4種の本文を完全収録した。以下の通りである。
・雑誌初出文:「方舟」(1948.7~9) と 「文學51」(1951.5~9)連載文
・初刊版:第2部全体を省略した通称「省略版」(1952.7)本文
・完全版:初刊版に第2部を増補した「完全版」(1957.6)本文
・決定版:最終手入れのある新潮社刊「福永武彦全集 第1巻」(1987.9)本文
上記の4種の本文完全収録ということは、紙版全集では事実上不可能なことであり、電子全集ならでは容量の大きさという特徴を生かしたものとなっている。更に、附録として収録した「本文主要異同表」を用いることで、初出→省略版→完全版という各版の本文異同を対照し、福永苦心の手入れ痕を確認できる。
この『小説風土』は、第1巻に収録した『塔』の諸短篇と同様、文章ソノモノが作品の本質であるという象徴主義小説としての特質を堅持しつつも、同時にロマンとして成立させるために、多くの日常的な、非芸術的挿話をも含み込ませねばならなかった。象徴主義小説でありつつ、同時に読者を飽きさせないロマンとしての内容を持たせること、それは未だメチエの確立していない20代の福永には至難のことであった。その両立を果そうとしたところに(途中で筆が止まった)挫折の因があるが、執筆の苦闘の中から、小説家としてのメチエを一歩一歩鍛え上げて行ったのである。
その苦闘の跡は、各版毎の一字一句に渡る著しい数の書き換えとして、作品本文に歴然と残されている。読者は、附録の「本文主要異同表」を参照しつつ、それらの痕跡を逐一追うことが出来る。
更に、書き換えや増補は文章だけに留まらず、作品全体の構成に、そして地の文たる1923年・1939年という時代設定にまで及ぶ。そのことを、「方舟」や「文學51」などの初出雑誌本文、自筆創作ノートや矢内原伊作宛はがきなどの未発表資料を豊富に用いつつ、解題で論じている点も見逃さないでいただきたい。
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