福永の出世作『草の花』を中心に、初めて単行本化された短篇集『塔』、学生時代に書かれた書簡など、作家・福永武彦の出発点とも言える、貴重な初期作品を完全収録。
第1巻について 目次 資料
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福永武彦電子全集第1巻について
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第1巻 「草の花」体験、福永武彦の出発
Ⅰ.『草の花』と関連作品
「草の花」体験を経ることなしに、詩人・小説家福永武彦は誕生し得なかった。
第一高等学校3年、18歳の福永が発表した短篇「かにかくに」は、その体験の重みを語っている。苦悩の最中にあって、一篇の作品として定着すべく試みられた記念碑である。続く「慰霊歌」は、戦後清瀬の療養所で、1949年~1950年にかけて書かれた、『草の花』「第一の手帳」の原型となる作品であるが、生前未発表作である。
出世作『草の花』は、初刊版(1954.4)と決定版(1987.5)の2種を完全収録し、解題に於いて初刊版と文庫版(1956.3)との異同や英語訳(2012)の問題点などを指摘している。
関連作品の中で、詩篇「戸田の春」と冊子「平野和夫君を偲びて」収録の俳句2句は、単行本、新潮版全集に未収録の貴重なものである。亦、随筆「病者の心」は、療養所入所中の自身の心の推移を具体的に描き、『草の花』冒頭の章「冬」に繋がる作品として収録した。
更に、『草の花』「冬」の章と同じ精神的風土を表出し、福永自ら「小品」と呼ぶ4篇「晩春記」、「旅への誘い」、「鴉のいる風景」、「夕焼雲」を併録する。
この「小品」なる区分は、福永が堀辰雄から継承したもので、数は少ないながらも福永文学に於いて重要な位置を占める。小説との違いに関しては、解題を参照されたい。
Ⅱ.『塔』
一方、福永初の小説集『塔』(1948.3)収録の「塔」、「雨」、「めたもるふぉおず」は、詩精神を小説に定着させようと試みた実験的小説であり、世界に通じる象徴主義小説―言葉による連想、隠喩、象徴、その音調を通し、内面的な観念や情調を暗示しようとする小説―として、各々独自の文体と構成を持つ作品である。
『草の花』がその内容に重点を置いた小説であることに較べ、文章ソノモノにより大きな比重がかかった諸作品である。
Ⅰ.Ⅱの全体として、詩人・小説家「福永武彦の出発」を理解する上で欠かせない、愛読者・研究者必読の一巻である。
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目次
◎は単行本・新潮版全集未収録作品 |