ゴーギャン作「かぐわしい大地」に圧倒され、終生追い続けたゴーギャンの謎。『藝術の慰め』など藝術評論も完全網羅
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福永武彦電子全集第10巻について
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第10巻 『ゴーギャンの世界』、彼方の美を追い求めて 
ゴーギャン作「かぐわしい大地」に圧倒され、終生追い続けたゴーギャンの謎。『藝術の慰め』など藝術評論も完全網羅
Ⅰ.ゴーギャンの世界』
「かぐわしい大地」の野生のイヴの眼差しの先にあるものとは? そしてそれを画面に定着し得る藝術家とは、そも何者なのか。評伝『ゴーギャンの世界』執筆の動機は、それらの謎にある。
福永武彦は、青年時代から晩年に至るまで、持続的にゴーギャンに関心を持ち続け、少数の、しかし自らにとって切実な問題(世界の謎)をそこから引き出し、それを作品として定着する藝術家の魂の問題として捉えた。『小説風土』から『死の島』に至る純粋小説に於いてと同様、この評伝『ゴーギャンの世界』に於いても、その世界の謎を表現し定着しようと格闘する藝術家の姿を描いた。
従って、評伝『ゴーギャンの世界』は、たとえ作品分析や、或いはゴーギャンの生涯の精緻な把握の点など、学問的な部分に於いて一部乗り越えられたとしても、他の詩篇や小説と並んで、決して古びることのない、福永独自の問題を孕んだ「一つの作品」としてあり続けるだろう。
Ⅱ.『藝術の慰め』
『ゴーギャンの世界』は書き下ろしであったが、こちらは雑誌「芸術生活」の1962年5月号より1964年2月号まで連載されたエッセイである。ゴーギャンの生涯と作品を徹底的に窮めつくした眼力で、ヨーロッパとアメリカの画家・作家22名の絵画を縦横に論じている。その特色は、絵画から自由に連想を飛ばして、好みの詩篇や音楽の紹介を通して、多角的な視点から一人の画家の個性を描き出している点と、毎回、原色図版を含め画像を多数挿入し、文章と同等に眼を通して愉しめる内容になっている点にある。当電子全集では、初刊版の図版の多くを挿入できなかった点は遺憾だが、掲載し得た原色図版10点の選択と配置には充分に意を用い、出来る限り福永の意図を汲むように努めた。
Ⅲ.『彼方の美』
この書の刊行は1980年6月で、福永が亡くなって10ヶ月後となるが、企画は生前から立てられていた。顕著な特色は、自らの意見を打ち出すというより、興味の惹かれた作品に様々な視点から迫るために、多くの資料・文献を蒐集し、それらの具体的資料、文献そのものに語らせようとする姿勢であり、自らはその引用者、解題者として読者に語りかけるという点である。『ゴーギャンの世界』や『藝術の慰め』に較べて、作品の細部への言及、著作や書簡からの引用が一層多くなる。また「熊谷守一の書」や「岡鹿之助の藝術」に見られる通り、作者と面識がある場合には、その日常的付き合いで得た印象や発言までも文中に取り入れる。この執筆スタイルの変化は(旧かな遣いも含め)、晩年に至っての文人意識の高まりの自ずからなる反映である。
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