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 愛の挫折と不在に悩む家族5人の葛藤を描いた『忘却の河』、“幼くして失った母”を通して自らのアルカジアを描いた『幼年』、童話作品等を収録。
 第12巻について 目次 資料
福永武彦電子全集第12巻について
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第12巻 『忘却の河』『幼年』、童話
Ⅰ.『忘却の河』
 発表当初より批評家の評判もよく、多くの読者に恵まれた作品。その理由は、主人公藤代の恋愛の挫折と結婚が、また妻ゆきの病床での途切れぬ想いが、第2次大戦に至る戦前、戦中の時代相を背景としてしっかり描かれていること、また、娘二人の性格の相違と精神的葛藤、そして藤代の現在の心情が、家庭内での各々の立場と結び合わされて描かれることによって言動にリアリティが生じ、大人の読者が入り込みやすい作品になっているからである。芸術家が主人公ではなく、両親と子供二人という戦後の典型的な家庭を舞台としてストーリーが展開している点も、読者には馴染みやすい。
 その一方で、全7章の各々に於いて、文体や構成に個別の工夫が凝らされていることは、創作ノートなどからも明らかであり、『小説風土』や『草の花』とは異なった姿勢と手法で試みられた長篇小説である。そこには、療養所生活以来改めて読み返した日本古典、そして民俗学についての教養の蓄積があり、同時に小説家としてのメチエの鍛錬によって得られた文章表現の闊達さ、ある種「筆任せ」の執筆姿勢を認めることができる。

Ⅱ.『幼年』
 自我の原型を、純粋記憶をもとに探求しようとした作品。「出来上がったものは小説の筈である」、「分類すればやはり小説というジャンルに属するべきものであろう」(「幼年」について)と記す筆には、この作品に対する福永の自負と自信の程が窺える。
 堀辰雄の『幼年時代』に対して、「挿話の一つ一つを彼の比較的気楽に書き得る「小品」の文体で書いて行ったために、集注的、凝縮的な効果をあげることが出来ず」そこに「この作品が小説というよりは小品集という感じになった原因があるだろう」(「堀辰雄の作品」 『意中の文士たち』下)と指摘している福永が、自らは「集注的、凝縮的な効果」をあげるために、「小品」を書くのとは異なった文体上の工夫を様々に凝らしている。
 その工夫は、特異な改行を持つこの作品を、ゆっくりと繰り返し読むことを通して、読者が自ずから感得し得るだろう。

Ⅲ.童話「猫の太郎」
 童話「猫の太郎」が雑誌「ディズニーの国」に連載されている時期は、執筆しかけては中断を繰返していた中篇『幼年』の完成が、絶えず念頭にあった。その福永にとって、この童話で「昨日の少年」の姿を描くことは、少年の日々のその向こうに、ほんの匂いのような朧げな姿しか捉えられない幼年の日の自らの姿を想起するためにも、その誘導剤としての役割を果たしただろう。連載最終回の「おしまいに」で、この童話を最後まで書き足して、一冊の本にすることを著者は約束しているものの、結局この続きが発表されることがなかったのは、翌年「幼年」を完成させた福永にとって、既にこの童話を書き継ぐための内的動機が失われてしまったからだ。

目次 ◎は単行本・新潮版全集未収録作品
1.忘却の河
・『忘却の河』(新潮社 1964.5)
・同決定版『福永武彦全集第七巻』(新潮社 1987.3)
・「忘却の河」創作ノオト:「国文学」(1977.7)

2.幼年
・限定版『幼年』(プレス・ビブリオマーヌ 1967.5)
・「幼年」について(初刊限定版 附録)
・同決定版『福永武彦全集第七巻』(新潮社 1987.3)

3.童話
◎初出「猫の太郎」:「ディズニーの国」(日本リーダーズ ダイジェスト社 連載未完 1963.6~12)
・初刊版『おおくにぬしのぼうけん』(岩崎書店 1968.2)

4.翻訳「玩具のモラル」(人文書院版『ボードレール全集 Ⅲ』1963.10)

【附録 本文主要異同表、画像資料(12)】
Ⅰ.『忘却の河』本文主要異同表(初出→初刊版)
Ⅰの②. 初出第七章末尾(雑誌「文藝」33頁、34頁)の本文
Ⅱ.『幼年』本文主要異同表(初出→初刊版→新版→全小説版)
Ⅲ.『忘却の河』ラジオ台本表紙
Ⅳ.『忘却の河』創作ノート2種
Ⅴ.『幼年』構想メモ。1948年の自筆手帳より画像と翻刻文各2種
Ⅵ.『幼年 その他』識語献呈本
Ⅶ.青柳尋常小学校 第16回卒業生、「六男一組」集合写真(撮影 1930.3)
Ⅷ.母、トヨ遺品の聖書
Ⅸ.福永末次郎自筆、雑司ヶ谷周辺略地図
Ⅹ.童話「猫の太郎」第7回掲載「ディズニーの国」終刊号(1963.12)表紙

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1.NHKラジオドラマ「忘却の河」台本(「文芸劇場」 1973.3)


2.プレス・ビブリオマーヌ版『幼年』刊行案内  


   

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