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MENU | . | ![]() ◇研究会の会誌「福永武彦研究 第18号」が発行されました(2024年11月)。New! 版型:B5判・2段組、117頁、1500円(送料430円) 購入希望の方は、会誌紹介ページより申し込みください。 ![]() ・『福永武彦戦後日記』『福永武彦新生日記』書名・作家名索引 ・日記から辿る『小説 風土』執筆経緯 ・『福永武彦新生日記』について ・『戦後日記』『新生日記』と福永文学 ・福永武彦自筆日記1945 初読時の感想 ・初刊本・特製本「塔」献呈名簿 ・「青春」掲載誌「ひろば」と註釈 ・『福永武彦戦後日記』註への補足 ・「塔」とその周辺―『福永武彦戦後日記』の余白に 【作品研究】福永武彦と時間―「河」における象徴に焦点を当てて― 【エッセイ・随筆】 ・福永武彦の作品における時間の停止および死生観の分析 ・その言葉を、他の多くの言葉と共に ・『風土』と奏鳴曲「月光」に関する思い出など 【資料紹介】全集未収録の小文の発見 *画像クリックで表紙・目次の拡大画像にリンクします。 ◇総会・第211回例会案内 New! 日時:2025年5月25日(日)13時〜17時 場所:川崎市平和館 第2会議室(Zoom併用) 内容: ①総会 ②例会 発表と討論 『意中の文士たち』上・下(人文書院 1973.6) 例会には、どなたでも参加できます。 オンライン例会の場合の参加費は無料です。 オンライン例会初参加を御希望の方は、お報せください。手順をお伝えします。 問い合わせ先:福永武彦研究会 三坂 剛 メール: ![]() ◇第210回例会(2025.3.23開催)報告を掲載しました。New! ◇書影付き著作データに「福永武彦詩集」写真版2部本を追加しました。 ◇福永武彦研究会 令和6年(2024年)度の会員(2025年5月末まで)を募集中です。 年内途中いつでも入会可です(途中入会割引あり) 入会についての資格は特になく、福永武彦の人と作品に興味をお持ちであれば、どなたにも開かれています。数々の会員特典があります。詳細案内 ◇「福永武彦資料の価格推移一覧1970~2020」(PDFファイル)公開 New! 研究会会員が手元の古書目録に拠って作成した資料を会員限定で公開しました。 稀覯本、署名本、そして自筆資料(草稿、手紙、日記、絵画、色紙など)を中心とする905点の福永武彦関連古書目録資料(397点については資料画像付)が掲載されています。 ◇研究会のX(旧ツイッター)アカウントを開設しました。 アドレス:https://twitter.com/fukunaga_ken 例会告知、福永関連情報の発信ほか、作品への感想などで一般愛読者とも繋がっていくことを目的とします。 ◇新刊『忘れがたき日々、いま一度、語りたきこと』(2023)/山崎剛太郎 New! 本書は、詩人、小説家、翻訳家で、700本以上のフランス映画の字幕翻訳を手がけ(フランス政府より芸術文化勲章を受勲)、2021年に103歳の生涯を閉じた山崎さんの文学と映画についての評論、随筆他を集成したもので、福永武彦研究会会員の渡邊啓史氏が山崎さんの依頼を受けて全体の編集を行っています。 字幕翻訳の裏話が興味深く、文学関連では、とくに親しかった中村真一郎との交友や堀辰雄、立原道造との思い出などとともに2003年10月に開催された福永武彦研究会の特別例会講演記録「亡き友 福永武彦と私の思い出」も収録されています。 ![]() ◇2023年3月30日に、池澤夏樹さんの注目作『また会う日まで』が刊行されました。 福永武彦の出生の背景についても明らかにされています。 ![]() ◇池澤夏樹さんと春菜さんの父娘対談『ぜんぶ本の話』(毎日新聞出版)が刊行されました。 「読書家三代 父たちの本」と題して、福永武彦についても1章が割かれています。一読をお薦めします。 また、池澤夏樹さんが、福永の伯父秋吉利雄を主人公とする小説を、8月より朝日新聞に連載されます。実に興味深いです。 ![]() ◇福永武彦電子全集 全20巻(小学館)の紹介ページを開設しました。 最終第20巻は、2020年6月に刊行されました。 ◇書影付き著作データ・小説に「小説風土」(完全版)(決定版)(新潮文庫版)を追加しました。 ◇池澤夏樹氏に当研究会の顧問に就任していただくことになりました。 cafe impala 池澤夏樹氏の公式サイト ◇福永武彦生誕100年特別企画の第1回として池澤夏樹氏講演会「福永武彦 人と文学」が、2017年6月11日(日)に神田神保町東京堂ホールにて開催されました。予約で満席となる盛況でした。日本経済新聞(4月29日朝刊)文化欄に福永武彦が大きく取り上げられ、池澤夏樹氏、当会会長のコメント記事とともに講演会についても紹介されました。 ![]() ![]() ◇福永武彦「廃市」が復刊されました! 小学館(P+D BOOKS) ![]() ◇福永武彦「加田怜太郎 作品集」が復刊されました! 小学館(P+D BOOKS) ![]() ◇福永武彦「夢見る少年の昼と夜」が復刊されました! 小学館(P+D BOOKS) ![]() ◇福永武彦「夜の三部作」が復刊されました! 小学館(P+D BOOKS) 池澤夏樹氏が解説を特別寄稿。池澤夏樹氏による解説文が掲載されています。 ![]() ◇福永武彦「風土」が復刊されました! 小学館(P+D BOOKS) 池澤夏樹氏が解説を特別寄稿。池澤夏樹氏による解説文が掲載されています。 ![]() ◇福永武彦「海市」が復刊されました! 小学館(P+D BOOKS) 池澤夏樹氏が解説を特別寄稿。池澤夏樹氏による解説文が掲載されています。 ![]() ◇福永武彦「未来都市」が刊行されました(2016年12月) ・36年余り永きに亘り眠っていた幻の大型絵本が、装いも新たに今、甦みがえりました。 ![]() ◇福永武彦関連 新刊2点(2015/3/26) ・堀辰雄/福永武彦/中村真一郎(池澤夏樹編集 日本文学全集17) 福永武彦:「深淵」「世界の終り」「廃市」 堀辰雄:「かげろうの日記」「ほととぎす」 中村真一郎:「雲のゆき来」を収録 ![]() ・「草の花」の成立―福永武彦の履歴/田口 耕平 ![]() ![]()
![]() 書影付き著作データに以下の資料を追加しました。 ◇「福永武彦詩集」写真版2部本 :掲載ページ New! 先日、懇意の古書店より連絡を受け、市場に福永武彦の面白い資料が出ていることを知りました。「福永武彦詩集」自筆ノオトの白黒コピーを大学ノートに1ページごとに張り付け、巻末には印刷した奥付が添附され、源高根宛の福永自筆識語が入っている2部本とのこと。存在は以前より知っていましたので入札を依頼したところ幸いに落札できました。 元となっている福永自筆の詩集というのは、『時の形見に』(白地社 2005.11)に写真版で紹介されているノートとはまた別の中判の大学ノートに記されたもので(1943年に清書されたもの)、収録詩篇も多少増えています。 奥付と福永識語により、このノートを作製したのは源高根氏であることがわかります。源氏はたえずこの写真版を参照し、岩波書店版『福永武彦詩集』校異への疑問を熱の籠った論文として纏めた際に参照したのもこの2部本です。 表紙、本文、奥付画像を掲載します。書影クリックで拡大画像にリンクします。 ![]() ◇「小説風土」(完全版)(決定版)(新潮文庫版):掲載ページ 書影クリックで拡大画像にリンクします。 ![]() ◇第209回例会 日時:202年3月23日(日)13時~16時 場所:リモート(Zoom)開催 【例会内容】 『海市』に関する発表と討論(2) 【例会内容(ズームAIによる要約)】 ・概要 福永武彦研究会の第210回例会では、福永武彦の小説『海市』について議論が行われ、作品の分析が行われた。来年度の例会計画や福永と中村真一郎に関する研究会の開催予定が提案され、両作家の文学的価値や若い世代への伝え方について意見が交わされた。さらに、福永の初版本や創作ノートの入手可能性、関連する書籍や文芸誌の情報共有も行われた。 ・全体 Ki氏が前回の宿題について報告し、新たな『海市』に関する論考は見つからなかったと述べた。Su氏が『海市』の構造について分析し、25のパートに分かれていることや、バッハの平均律クラヴィーア曲集とブラームスの弦楽六重奏曲第一番を参考にした構成について説明した。Mi氏は次回の例会内容や新年度の計画について議論した。 ・『海市』について 作品の構造、登場人物の視点、音楽的要素の使用など。また特にボートシーンの断片に関して、その登場人物についての意見が交わされる。また、ウィキペディアを参照しつつ、記事作成者や編集履歴についての情報共有も行われた。参加者たちは、福永の文学的手法や感動的な描写、そして作品の曖昧さが持つ意味について考察を深めた。 ・創作意図、読者像を新聞記事より Mi氏は福永武彦の小説『海市』に関する二つの新聞記事について説明した。1968年2月の「信濃毎日新聞」と「神戸新聞」の記事を紹介し、福永の執筆過程、小説の構造、テーマ、そして読者層について触れた。そこで福永は、一人称と三人称を交錯させる独特の手法を用い、現代の愛と運命をテーマにしていると述べた。また、福永は澁と同世代の読者に作品を読んでほしいと語っていた。 ・福永偽造原稿 A氏とMi氏は、福永の初版本や創作ノートの価格や入手について議論し、若い世代の古書収集への関心にも触れた。A氏は、ネット上で福永の原稿「飛天」が安価で販売されているが偽造品として詐欺的な事例を報告し、自身も類似の詐欺に遭った経験を共有した。Ki氏は、過去の蔵書処分の経験について話した。 ・来年度の例会案 福永研究の継続と新年度に向けての計画についても言及した。Mi氏は新年度の内容案を提案し、5月は『意中の文士たち』を取り上げることが決定された。9月の内容については中村真一郎の『秋』を候補として挙げ、私小説について議論する可能性が示唆された。また、福永武彦研究会設立30周年を記念して、次号の会誌では中村真一郎による1997年の講演録を掲載する計画が提示された。 ・『死と転生』の議論と追悼 会議では、中村真一郎と木原康行の共著『死と転生』に関連して、A氏が木原さんの奥様から入手した書簡の一部を報告書に掲載することが提案された。また、福永武彦の追悼特集が文芸誌に掲載されたことが話題となり、参加者たちは福永と中村真一郎との関係について回顧した。Ma氏は源高根先生宛の福永著書『批評のAB』の購入を計画していることを報告し、Mi氏はその意義を認めた。 ・福永武彦と中村真一郎 Mi氏は、福永武彦と中村真一郎の文学に関する会を隔月でZoom開催する予定を説明した。両作家の関係性や文学的価値について議論し、若い世代への伝え方や現代の文学的教養のギャップについて懸念を示した。また、中村真一郎の評論や江戸時代末期のモダニズムに関する研究についても言及している。Mi氏は、これらの活動を通じて福永と中村の文学をより広く伝えていきたいと考えている。 内容:例会後の会員による投稿 Su氏:『海市』感想 例会で述べたことを少々補足し、また、別途考えたことを以下に纏めてみました。 *構成上の考察 本作は第一部、第二部、間奏曲、第三部の四部構成、全25のピースからなる。各ピースは全小説版では改ページされる形で、文庫本では前後一行ずつ空け ⁂ の印をつけて示される。各ピースは更に*印によって区切られる複数の断章からなる。そして多くの場合、「彼」と「彼女」を登場人物とする挿話を伴う。 その構成は、作品に附された「著者の言葉」にあるとおり「平均率(「律」の誤記?)クラヴィア曲集」になぞらえた形式だと思われる。バッハの「平均律クラヴィア曲集」は、24の各調性に基づいた「前奏曲」と「フーガ」からなる全24曲の作品である。「前奏曲」は、調性順つまり時系列に従って並べられた主人公澁のモノローグのものがたりと、「フーガ」は、主題である澁のモノローグと響きあう形で追走される挿話群と、いう形で対応する。音楽が対位法という技法によって、各旋律が聴く者の心に響きあって感動をもたらすように、小説中の各断章と挿話が読者の心に響きあい感動を生むという意図によって構成されている。 小説中の「間奏曲」の部分は、この小説の主題である澁と安見子との愛の物語の進展がなく、挿話も附されない単一のモノローグで終わっているので、「間奏曲」という文字通りのものとして省けば、一部、二部、三部を合計して24のピースとなり、「平均律クラヴィア曲集」と数字的にも合致する。 更に、各断章群の「彼」と「彼女」の挿話を確認していくとその付置には一定の法則が見られる。まず、断章群はその直前に述べられた澁のモノローグに内的に連関する「場面」や「言葉」で繋がるのだが、二つの断章が並べられるとき、最初の断章の「彼」と「彼女」は澁と弓子で、次が古賀と安見子を表すのが基調となる。そのパターンは小説の最後まで変わらない。現在進行している「私」と安見子の愛と、「私」と安見子それぞれの「パートナー」と挿話を通して、それぞれの愛のかたちが対比されて、読者に心的交響作用を働かせようとする意図のためであろう。その流れから推測すれば、第七パーツ(七章)での高原の湖でボートに乗っている場面は弓子と澁と取るのが最も自然であろう。ただ、ここでは作者は、直前の部分で弓子の長年の思い人菱沼の帰国を澁が知る場面を描き、次の挿話で描く「安見子」と同定できる「彼女」の、異性への接し方との対比によって起こる読者への心的交響を図り、敢えて、ここでの「彼」が澁なのか菱沼なのか同定しにくく描いているのであろう。これは、ここまで繰り返された挿話のパターンに変化を持たせ、物語に新たな展開をもたらす動機の一つとなる。実際、ここまでの挿話はすべて澁と弓子、次いで古賀と安見子のパターンが並ぶ形で展開しているが、次の第八パーツ(八章)の挿話は「彼」=澁と「友人」=古賀を示す形に変化させている。転調といってもいいように、以降時折「彼」と「彼女」が澁とふさ、菱沼と弓子、野々宮と安見子を示すパターン、或いは「彼」、「彼女」のみが登場する挿話をちりばめて、変化していくのである。 また、小説全体を俯瞰すると、著者が東京新聞に書いた「『海市』の背景」で述べる通り、「間奏曲」を短い第三楽章としてとらえ、全4楽章のブラームス「弦楽六重奏曲第一番」になぞらえる形式とみることもできる。この曲は作曲者ブラームスが、自らのアガーテ・フォン・ジーボルトとの悲恋を振り返って描いた曲としても知られ、特にその第二楽章の美しさは非常に有名である。この「海市」においても、第二部は安見子との愛の深まりを非常にロマネスクに描いており、そのハイライトは澁と安見子とが二人音楽会でブラームス及びモ-ツァルトの弦楽五重奏曲を聴く場面とそれに続く二人の情事とが描かれ、この二つの場面に通底して響きあう、「死を内蔵したような生の象」が「透明な悲しみがものうく心を捉えているところ、いつまでも暮れることのない長い黄昏」に包まれたような濃密な美しさは、やはりこの弦楽六重奏曲と対応するように思われる。 次に、小説中の冒頭部と末尾が対応し、(ただし、冒頭は澁の視点から、末尾は「彼女(=安見子)」の視点から描かれる)時を同じくする場面が描かれる点と、実際に同定される人物は異なりながらも、何度も繰り返される「彼」と「彼女」の挿話について着目する。 これは音楽でいうところの「循環形式」の作曲技法に合致するのではないか。「循環形式」は多楽章曲中の二つ以上の楽章で共通の主題、旋律、或いはその他の主題的要素を登場させることにより、楽曲全体の統一を図る手法とされる。福永は、ボードレールに倣い「音楽からその富を奪う」という考えで小説づくりを行っており、この作曲技法を作品作りに援用しているのではないだろうか。 冒頭と末尾の対応については、或いはウロボロスを想定したのかもしれない。ウロボロスは蛇が自分の尾を嚙む形で、始まりと終わりがないことから永劫回帰や不滅、再生、循環、完全などのシンボルとされる。また、悪循環、無間地獄であり、破壊と創造を意味するともいう。小説では、愛の不可能性、現代の愛の無間地獄の様を象徴させているとみることもできるかもしれない。 *小説中に描かれた色彩表現の特徴 小説中「間奏曲」冒頭で、澁が自らの絵の色彩について説明する箇所があるが、その中で「私は自分の固有の色彩を、謂わば魂の色相とでも言うべきものを、作り出したいと望んでいた。」と書く。福永もこの小説中で、色彩をそのような「魂の色相」として表現しようとしたのではないか。 まず、安見子においてそれが最も顕著に表れる。この小説は、澁と安見子の不可能な愛の物語である。そのため安見子をどのように描くかが問われる。福永は、特に一部、二部で、安見子のその時その時の服装について繰り返し描く。そこでは、ほとんどの場合服の色も細かく描写する。そして、それに連関するように風景描写を色彩感豊かに表現する。安見子の登場場面、或いは澁が安見子に思いを馳せたりするとき、作中には色彩豊かな風景が描かれる。これが読者に強い印象を齎し、安見子をより魅力的にする。 それに対して、弓子の場面ではそれがない。弓子の服装表現はあっても色彩の記述はなく、風景描写にも色彩感は乏しい。他の登場人物を描くときも同様である。 但し、数少ないふさの登場場面は別である。病に斃れ、若く死んでいったふさを描くとき、安見子の場合同様描写は色彩感に溢れている。死んでいったもの、或いは死にゆくものは鮮やかな色彩の中に描かれる。一方、自殺未遂は繰り返すが、死なない弓子は色彩感をもって描かれない。作者は、安見子とふさに対して「魂の色相」として、その魂を象徴するかのように美しい「色彩」表現を行ったと言えるのではないか。 澁の説く人間の三つの分類、「確実に死ぬべき人間」「生き残った者」「無関心な者」という分類。澁は自らを「生き残った者」と規定し、安見子は自らを「死ぬべき人間」と規定する。すると、作者は「死ぬべき人間」こそが美しいといいたいのであろうか。或いは、「生き残った者」が「死ぬべき人間」を見つめるとき、限りなく美しく見えるということであろうか。 作中冒頭の安見子との出会いに続く部分で、作者は「風景も畢竟人間的なものだ、(略)人間の眼が見るからこそ風景は風景としての意味を持ち始める。そして人間の眼は各人各様に見る。(略)そして私は、心の平和を求めて、この明るい風景のある漁村を訪れたのだ。しかしあの女は、何を求めて岬へ蜃気楼などを見に行ったのだろうか。あの寂しい岬でどのような風景を見ていたのだろうか。」と書く。安見子が見たもの、或いは安見子を通して澁の見たもの、福永はそれを「魂の色相」として作中に定着させようとしたのではないか。 *作品にみられる“愛の三角形”としての男女の三角関係の構図につて 「廃市」と対応する形で構想された「海市」は、短編のレシ「廃市」に対し長編ロマンであり、相応するように三角関係も重層化する。 「廃市」は、表面上の郁代―直之―秀の三角関係に、実は安子―直之―郁代の関係が隠れており、更に深層面での「僕」―安子―直之の関係が加わる。対して「海市」では、表面上①澁―安見子―古賀、②澁―弓子―菱沼の二つだが、深層面では③弓子―澁―ふさ、④澁―ふさ―古賀、⑤澁―安見子―野々宮の構図、また、⑥弓子―澁―「母」、更に死んでゆくものと死にそこなったものという関係の繰り返しから見れば⑦ふさ―澁―安見子という構図も描ける。 この三角形の構図は、常に福永作品の基本構図の形となる。もしかしたら福永は、人間関係の基本構図はこのようなものだと考えていたのかもしれない。どちらかを選ぶことは不可能であるにもかかわらず、どちらかを選ばざるを得ない。それが人間の置かれた運命である。そういった運命を生きねばならないのが人間であると。 *エロティシズム或いはデカダンスとしての裸体表現、性描写 *福永作品にみられる「海」のトポス的役割 これらの問題についても考えなければならないが、まず、作品が成立した1960年代という時代状況や、福永に多大に影響を与えたと考えられる荷風、犀星、川端等の作品との比較検討が必要であろうし、福永のほかの作品での表現も詳細に見ていかなければならず、今回は時間が許さなかった。いずれ検討していきたいと考えている。 Ya氏:初参加の感想 神田?神保町でしたか、池澤夏樹さんをゲストに迎える記事を日経新聞で読んでから、是非ともということで会へ参加して以来です。大学時代に親しんだフクナガですので、当時のじぶんを振り返っている状況です。今後とも宜しくお願いします。 Ma氏:源高根先生と『福永武彦作品批評A/B』 昨年のいつのことだろうか、けやき書店が『批評A・B 著作家蔵本限26函 M番 各源高根宛毛筆署名入 総バックスキン装 函少日焼』を出品しているのを知った(日本の古本屋より)。これは絶対入手すると心に決めた。たとえ、これが30万円だったとしても。だが、懐事情からすぐに購入できなかった。幸いその後状況も改善されてきたので、近々購入することができそうでホッとしている(購入するまではまだ油断はできないのだが・・・)。 私がこの書籍に強い思い入れを抱くのは理由がある。単に『批評A・B』の限定版であるなら購入を決断することはなかった。「源高根」宛の署名がある書籍だからこそ購入したいのだ。 福永―源という繋がりは、私の想像を超える深さをもっているものだろう。そして、私と源高根氏との繋がりも一言で語り尽くすことのできない関係でもある。 源先生は実際に私の先生であられた。私が高校卒業後進学先に選んだのは大阪藝術大学だったからである。進学の決め手となったのは、源先生と福永の話をしたかったから、という理由による。 私が入学してしばらく経ってから先生はこう語られた。「君ね、ぼくは面接で福永が好きだという受験生がいると聞いた時、『きっと変わり者だろうから落としなさい』と言ったんだよ。でも、君は思ったよりも普通だったのでよかった」とおっしゃられた。そして、ニコリとされたことを覚えている。 一回生の時に受講した”日本現代文学史”のテキストは確か『火の山の物語』だったと記憶している。それをテキストに選定されたことが気になって、ある時先生に「この本は一人で読んで楽しむような本だと思っていました。なので、講義のテキストとして選ばれたのはちょっと驚きました」と伝えると、「そうでしょう。それでも参考になると思って選んだ」と答えられたと思う。 福永を好む私のような学生が入学したと言うこともあってか、先生は講義に関して意気込んでおられていたようだ。実際、例年よりも詳細な講義レジュメを作成して講義に臨まれていた。そして、講義後はいつも学食で貧乏学生の私に昼食をご馳走してくださった。 悲しいのは今、私の手元に先生の講義のレジュメが一つも残されていないこと、また、正確には先生がどのようにおっしゃられたのか、記憶が霞んでいることだ。 先生とは一回生から二回生の頃までは深い繋がりがあった。しかし、先生がご病気で長く休講が続いたことや、私が福永以外の作品も多く読むようになったことも関係するのか、いつの間にか先生との間に距離ができるようになってしまった。私は愛書家で、蒐集家の先生に”敵わない”という気持ちになってしまったのだった。いや、それは体のいい言い訳に過ぎない。当時の私は密かに未完の『夢の輪』の続きを書くことなど、大それた望みを持っていた。だが、執筆するのに必要な知識も経験も技量も持ち合わせていなかった。恥を恐れずに記すならば、私は何事に対しても踏み出す”勇気”を持ち合わせていなかったのだ。そのような私に対しても、先生はあたたかい眼差しをもって見守ろうとされていたと思うが、私の方は無意識のうちに先生を避けるようになってしまった。側で私の振る舞いを見た友人から「(先生に対して)つれないな」と言われたこともある。それは仕方ないことだったのかもしれない。仮にそうだったとしても、先生の善意を無駄にしてしまった、という後悔の念が私にはずっとある。加えて、先生が亡くなられたという知らせを聞いた時も、葬儀に参列することもなかった。なぜそうしたのかといえば、お世話になった先生に顔向けできない、と若かった私は考えたからだった。 先生は私が今、限定版の『批評A・B』を購入しようとしていること知り、天国で憤慨されておられるだろう。 ただ、今の私にできること―それは先生が大切にされ、また福永自身手にとった限定本を他の誰でもない私の手元に置くことが先生への罪滅ぼしになる、と思えてならないのだ。 このように源先生を介して、私は福永と繋がりを持っている。 Mi氏:要点 ① 愛読者や研究者にもあまり眼に触れていないだろう1968年2月の「信濃毎日新聞」と「神戸新聞」の福永武彦インタヴュー記事を配付し、福永自身の『海市』に関する発言を改めて確認しました。 「もともと抽象的な、観念小説を書くつもりで、実は彼・彼女がだれなのか、もっと終わりのほうまで読まないとわかりにくくするつもりだったんですが、少しやさしくしてしまった」「僕としては澁と同世代の人に読んでほしい。意見を聞かせてほしいと思います。三十代の人たちにはちょっとわかりにくいところがあるかもしれませんがね」(「信濃毎日新聞」1968.2.5) 「小説はたんに作者が読者に与えるものではなく、読者も精神的に参加してクリエート(創造)するものだというのが僕の持論なんです」。読者と一緒に考えたいのは「死」であり、なぜならそれは「芸術と同様、人生の本質に触れるもの」だから。(「神戸新聞」1968.2.8) *「神戸新聞」記事は、どこまで福永が<その場で>語った言葉なのかやや不明瞭。 ② 福永武彦自筆の「文字遣ひ表」(B5×3枚 自筆複写文に後から青色細ペンで加筆)を配付し、文字遣いに関する福永の原則、特徴(特殊な漢字、かな書き、正字など)を適宜説明しました(資料は電子全集第14巻「解題」掲載)。 一篇の詩のように、読者に別次元の幻像を創造せしめることを目指す福永小説の分析には、構成や主題などの鳥瞰図と同時に「具体的にどのような文字を使用しているのか」という言ってみれば虫瞰図が必須となります。 ◇過去の例会報告 例会報告のページをご覧下さい。 ![]() |
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