当サイトは1995年に設立された福永武彦研究会の公式ホームページです。
福永作品を愛する方、福永武彦について深く知りたい方は、どなたでも入会できます。


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◇池澤夏樹氏に当研究会の顧問に就任していただくことになりました。
 
cafe impala 池澤夏樹氏の公式サイト
       
第169回例会開催案内 New!
  
第168回例会報告
New!
    
◇平成30年度会員(5月より1年間)募集中です。
New!
 会員になると様々な特典が受けられます。詳細 
   
◇新年度特別企画の第1回として池澤夏樹氏講演会「福永武彦 人と文学」が、昨年6月11日(日)に神田神保町東京堂ホールにて開催されました。予約で満席となる盛況でした。日本経済新聞(4月29日朝刊)文化欄に福永武彦が大きく取り上げられ、池澤夏樹氏、当会会長のコメント記事とともに講演会についても紹介されました。

 
福永武彦「廃市」が復刊されました!

 小学館(P+D BOOKS)より。    
     
 
福永武彦「夢見る少年の昼と夜」が復刊されました! 
 小学館(P+D BOOKS)より。
 
書影付き著作データ・評論に「ゴーギャンの世界」を追加しました。
  
研究会の会誌「福永武彦研究 第12号」が発行されました。
 【特別例会講演記録】近桂一郎氏「日本少年寮と福永武彦」
 【作品論】 『退屈な少年』 他
    
研究会20代メンバーが核となって企画された同人誌「Nocturne No.2」が発刊されました。
 【特集】『海市』 

   
福永武彦「夜の三部作」が復刊されました!
    
・小学館(P+D BOOKS)より。池澤夏樹氏が解説を特別寄稿。池澤夏樹氏による解説文が掲載されています。
             
福永武彦「風土」が復刊されました! 
・小学館(P+D BOOKS)より。池澤夏樹氏が解説を特別寄稿。池澤夏樹氏による解説文が掲載されています。
   
福永武彦「海市」が復刊されました!
・小学館(P+D BOOKS)より。池澤夏樹氏が解説を特別寄稿。池澤夏樹氏による解説文が掲載されています。
          
福永武彦関連 新刊2点(2015/3/26)
 ・堀辰雄/福永武彦/中村真一郎(池澤夏樹編集 日本文学全集17)
 ・「草の花」の成立―福永武彦の履歴/田口 耕平
    






    
研究会の会誌「福永武彦研究 第12号」が発行されました。New!
   
 会誌購入を希望の方は、「研究会 会誌」のページをご覧下さい。
    
(内容)
 【例会講演記録】近桂一郎氏「日本少年寮と福永武彦」(2016年3月27日)
 【作品論】『退屈な少年』
 【随筆】
  ・福永武彦についての二つの思い出(附・福永武彦書簡資料)
  ・関連資料(附・福永武彦葉書資料)
 【随筆集索引】『夢のように』 その他

  
  *画像クリックで表・裏表紙の拡大画像にリンクします。

  
  



   


研究会20代メンバーが核となって企画された同人誌「Nocturne No.2」が発刊されましたNew!
   
 購入を希望の方は、「研究会 会誌」のページをご覧下さい。  
    
(内容)

 【特集】『海市』 
  ・海に沈む岩礁群-『海市』から想う- /雨でずぶ濡れ
  ・『海市』に見る福永武彦の主人公造形-『海市』覚書/Cahier
  ・批評・『海市』を探検する /クスボリ・しゅーげ
  ・『海市』あらすじ表
  ・『海市』あらすじ表について

    
 *画像クリックで表・裏表紙の拡大画像にリンクします。

  
  
   
   
   
第169回例会 開催案内 New!
  • 日時:2018年3月25日(日)13時~17時
    場所:川崎市平和館 第2会議室
    内容:
  •  ①討論『忘却の河』其の2(新潮社 1964)
      *分割せず、全体を討論します。底本は、何版でも結構です。
     ②福永武彦関連の企画・出版に関して。
     ③その他。

 どなたでも参加できます。会員以外で聴講を希望される方は事前に研究会に申し込みをお願い致します。
 参加・聴講費:1000円(会員、学生は500円)
 お問い合わせ先: 福永武彦研究会 三坂 剛  メール:  Fax:044-945-0666
 
 ◇当サイトより会誌の購入ができるようになりました。
   現在庫のある第1号~3号、6号~10号の会誌を購入希望の方は、「研究会 会誌」のページ
   ご覧下さい。神田の八木書店、軽井沢高原文庫でも会誌を購入できます。
          
    
◇福永武彦「海市」「風土」「夜の三部作」が復刊されました。(2016/6/13)
 ・小学館(P+D BOOKS)より。池澤夏樹氏が解説を特別寄稿。

    
◇福永武彦関連 新刊2点(2015/3/26)
 ・堀辰雄/福永武彦/中村真一郎(池澤夏樹編集 日本文学全集17)
   福永武彦:「深淵」「世界の終り」「廃市」
   堀辰雄:「かげろうの日記」「ほととぎす」
   中村真一郎:「雲のゆき来」を収録

              
 ・「草の花」の成立―福永武彦の履歴/田口 耕平



   
 書影付き著作データに以下の資料を追加しました。
   
◇評論:掲載ページ
  書影クリックで拡大画像にリンクします。

 
   

「ゴーギャンの世界」元版

 1961/7/5 新潮社 700円

二光印刷・A5判・丸背厚紙装,背クロス・函・帯
324頁(他に圖版30頁,「年表」と「文獻目録」で43頁)
*近親者だけに配付した30部限定の「別刷後記」(3頁)あり(全集第19巻に附録として収録)

   (前川康男宛 福永自筆の献呈・後書き)
 
献呈先の前川康男は、福永が『ゴーギャンの世界』を執筆している際の担当編集者の1人。もともと児童作家志望で、新潮社を退社して後、多くの著作がある。

  
◇雑誌: 掲載ページ
  書影クリックで拡大画像にリンクします。

  「高原文庫」№2 「四季」第66号
 
   発行所:軽井沢高原文庫
 編集人:池内輝雄 発行人: 藤巻勲夫
 1987/7/1 500円

*座談会 福永武彦・文学の形成と発展―その深淵を探る試み 辻邦生・豊崎光一・曽根博義・鈴木貞美・池内輝雄 他。
 発行所: 四季社 編集兼発行者:日下部雄一
 1942/6/27 40銭
 
*マラルメ「エロディアド」の翻訳を巻頭に掲載(4頁~19頁)。他に、中村眞一郎の小品「窓」、小山正孝の詩「路上」など。画像3点は、(復刻でなく)オリジナル雑誌の表紙、目次、裏表紙。




     
◇第168回例会 New!
 日時:2018年1月28日(日) 13時00分~17時
 場所:川崎市平和館第2会議室
 参加:8名(内、初参加2名)
   
【例会内容】
  •  福永武彦生誕100年に当る今年、幾つかの文学館で、関連の企画が予定されています。① その概要を簡単にご報告し、② 昨年の12月に古書市場(業者市 一般には未公開)に出現した源高根旧蔵の福永著訳書や自筆資料の内容に関して、目録を回覧しつつご報告、そして、③ 長篇『忘却の河』の集団討論を約3時間行いました。
【例会での発言要旨・感想】順不同(敬称略)
  
 ・Haさん:『忘却の河』について― 短編「忘却の河」 と長編『忘却の河』―
  • 二章以下がないものとして、初出の一章「忘却の河」のみで、小説の構成, 主題等を検討し、次に長編『忘却の河』のそれらと比較した。
    1.短編「忘却の河」と長編『忘却の河』(1964年5月刊)
    (1-1)初出(執筆時期は源 高根「編年体・評伝福永武彦」1980年による。)
    一章 忘却の河  『文藝』1963年3月(1962年秋-冬に執筆)
    二章 煙塵    『文學界』1963年8月(1963年6月に執筆)
    三章 舞台    『婦人之友』1963年9月(1963年7月に執筆)
    四章 夢の通い路 『小説中央公論』1963年12月(1963年7-8月に執筆)
    五章 硝子の城  『群像』1963年11月(1963年9月に執筆)
    六章 喪中の人  『小説新潮』1963年12月(1963年9-10月に執筆)
    七章 賽の河原  『文藝』1963年12月(1963年10月に執筆)
    ○「これ(初出の一章「忘却の河」)はこれで独立した短編である。しかし書き上げてからこの作品のノオト*やら資料やらを見ているうちに、どうもこの一作だけでは惜しいような気がして来た。」(全小説第七巻 序1973年) *創作ノートAとする。
    ⇒福永のこの言葉と一章執筆の4-5ヶ月後に二章が書かれ、以下七章までほぼ毎月一章ずつ書かれていることにより、一章「忘却の河」は独立した短編として書かれたことは確かだと思われる。独立した短編として書かれた一章「忘却の河」と七つの章からなる長編『忘却の河』の内容・読後感を比較した。

    (1-2)短編「忘却の河」
    (1-2-1)構成・技法
    ・文体:「会話のカギがないため会話と意識描写との区別がつかない。」(「忘却の河」創作ノート1977年:創作ノートBとする。)
    ・構成:主人公は藤代。藤代の過去(彼)で述べられた看護婦との恋の話と台風の日に助けた女との話を経糸している。
    ○「告別」(初出1962/1)について、原善「福永武彦「告別」の構造、文藝空間第10号、1996年」で用いられた位相を、短編「忘却の河」(初出1963/3)に適用すると以下のようになると思われる。
    A = 現在時の〈私〉パート(手記を書く私の物語)
    B = 近過去の〈私〉パート(台風の時に助けた女との物語)
    C =〈私〉の大過去である〈彼〉パート(看護婦との物語、戦友との物語)
    D = Aの中の〈私〉の内的独白  E = Bの中の〈私〉の内的独白   F = Cの中の〈彼〉の内的独白
    詳細は省略するが、上記の位相に分類しながら読むと、内容が理解しやすくなると思われる。

    (1-3)長編『忘却の河』
    (1-3-1)構成・技法
    ・視点人物(主人公)

    章名

    視点人物

    章の書き出し文の

     

     

    (主人公)

    視点人物の表記 

    一章

    忘却の河

    (藤代)

    がこれを書くのは

    二章

    煙塵

    藤代美佐子

    彼女が伊能と別れてバスに

    三章

    舞台

    藤代香代子

    彼女はコンクリート建ての新館の

    四章

    夢の通い路

    藤代ゆき

    わたしは今まで長いあいだ

    五章

    硝子の城

    三木

    はうつらうつらしながら

    六章

    喪中の人

    藤代香代子

    彼女は自分が酔っていることを

    七章

    賽の河原

    (藤代)

    がこれを書くのは


    ・章ごとに視点人物を替えて叙述している。これは『夢の輪』(初出1960/10~1963/5)でも用いられた技法。
    ・そのため、章と次の章で話が直接つながらなくても不自然ではない。
    ・一章、四章、七章:作者が表面に出てこない(語り手が存在しない)。
    二章、三章、五章、六章:作者が視点人物を描写している(語り手が存在する)。
    ・視点人物が作者の分身としてではなく、すべて独立した個人として描かれている(ポリフォニック(多声音楽的)な物語)。
    ・文体:①四章でのひらがなの多用、文章・段落が長い。(高木徹:福永武彦における表現の特質 ―『忘却の河』の基礎的調査より ― 1999年 名古屋近代文学研究9号)
    ②短編「忘却の河」と同じく会話のカギはなし。

    (1-3-2)初出本文と元版本文の主な相違点(仮名遣いと漢字字体を除く)(以下では初出も新仮名遣いと新漢字で表記した。)
    各章は短編として独立しているか、長編にまとめる際に書き換え・追加をしているか、そのままの形で長編になっているかを確認した。その結果、六章の最後の段落(以下の六章①)を除いて、各章の最初の段落と最後の段落が初出と元版で同じであった。また、初出本文と元版本文の重要な相違点と変更による効果は以下の通り。

    三章 なし (①母親は七、八年来、脊髄の病気で倒れていて、(初出194頁) → 初出と同じ(元版119頁))
    ⇒この部分を元版で残すことにより、ゆきの病気が脊髄の病気であることが長編『忘却の河』ではっきりする。
    四章  ①「わたしのからだに触れようとしなかった」(初出38頁)の次に、元版では「しかしわたしたちにはもうためらっているだけの時間がなかった」が追加されている。(元版169頁)
    ⇒呉とゆきの間に肉体関係があっただろうことがより確実に推定される。

    六章   ①その代り涙がぽたぽたと垂れた。窓からの明るい日射しの中に、(初出104頁) →  その代り涙がぽたぽたと垂れた。あたしは何処かへ行ってしまいたい、ママ、あたしは何処か遠くへ行ってしまいたい、と彼女は心のなかで叫んでいた。窓からの明るい日射しの中に、(元版225頁)
    ⇒香代子のゆきへの思いが強調される。また、七章で香代子がゆきのお墓参りに行くとことの伏線となる。

    七章 ①「自分が生きていることの証とするのではないだろうか。」(初出32頁)の次に以下が追加:
        「寒いかぜの吹き抜けるプラットフォームに ~ 青年に向けて訴えていた。」(元版266頁17行目~269頁1行目)
    ⇒・昔の看護婦の恋人の言葉「わたしたちはみんな死んだら何処に行くんでしょうね。」(元版268頁4行目)は、この恋人がこの時点で自殺を考えていたのではないかということを暗示する。
    ・「僕は決して君のことを忘れないよ、と彼は言った。」(元版268頁11行目)は元版269頁10行目の「僕は決して忘れないよ、と彼は言った。」に呼応している。
    ・追加部分の直後の「でもあなたはわたしのことを決して忘れないわね。」(元版269頁8行目)は元版269頁11行目の「僕は決して忘れないよ、と私は言った。」に呼応している。

    ②「どうしてわたしがその子守唄を知っているんでしょうね。」(初出33頁)の次の文章から「A子が先に東京に帰ったあと、」(初出33頁)までの文章が大きく書き換えられている。(元版272頁2行目~273頁10行目)
    ⇒藤代と美佐子との和解のやり取りがより自然に感じられる。

    (1-4)主題
    (1-4-1)短編「忘却の河」:・或る女の変身の物語(昔の看護婦の恋人と台風の晩に助けた女)(「忘却の河」創作ノート 一章1977年)  ・恋人を裏切った罪
    (1-4-2)長編『忘却の河』:・「人は古里を忘れることは出来ない、人は古里に帰ることは出来ない。」(全小説第七巻 序1973年、「忘却の河」創作ノート 二章煙塵のノートに連作の全体的主題として記載1977年)
    2.考察
    (2-1)『忘却の河』二章から七章の創作ノートはいつ書かれたか?:
    一章の「忘却の河」が書かれた後と思われる。その根拠は一章の創作ノートではなく、二章の創作ノートに『忘却の河』連作の構想と連作の全体的主題が記載されているため。1977年に『国文学 解釈と鑑賞』に発表された「忘却の河」創作ノオト(創作ノートB)は創作オートAとは別のものと思われる(源 高根 編年体:評伝福永武彦1980年)。創作ノートBは長編『忘却の河』を書くために、創作ノートAを再整理したものと思われる。より正確には創作ノートAと創作ノートBの間に創作ノートMというものがあり、創作ノートMを短縮・整理したものが創作ノートBであると推定される。

    (2-2)短編「忘却の河」にはなく、長編『忘却の河』で叙述されている事項:
    ・藤代、ゆき、美佐子、香代子はそれぞれのふるさとを求めている。
    ・各章の主人公が何を考えているか、主人公の視点から多面的描写がなされている。
    ・家族全員がそれぞれ何を考えているか、何に悩んでいるかという内面が描写されている。
    ・特に妻ゆきの内面が詳細に叙述されている。(四章)
    ・藤代と妻・娘たちとの和解が叙述されている。(七章)
 ・Waさん:福永武彦研究会 第168 回例会によせて
  •  内容を検討する前に、新しい発見という訣ではありませんが、先ず『忘却の河』の成立の背景、殊に何故この作品が成立し得たかたということを、整理しておきたいと思います。

     周知の通り、作者には長篇を書こうと思いながら書けない時期が長く続きました。中期の作品の多くは、その試行錯誤の産物です。例えば「退屈な少年」は、既に見た通り、多くの作中人物を配して複雑な構成を持つ、長篇の模型のような作品です。最初の章で少年がひとつの観念を提示し、その観念に基づく少年の行動の引き起こす結果が続く章で展開される。これをひと組 (一単位) として同じ構成を持つ組が複数回繰り返される。そこにさまざまな主題が提示される訣ですが、分量の制約か構成の複雑さのためか、それぞれの主題は、必ずしも十分に展開されているようには見えません。最後の場面に「運命」を持ち出して話をまとめるものの、やや唐突の感は否めないように思います。恐らく作者自身も、この作品に満足してはいなかったのではないか、仮に何らかの手応えを感じていたのなら、次の長篇への準備としての「告別」は書かれなかったのではないか、という気さえします。
     その「告別」もまた、構成の粗さと主題の未消化の目立つ作品のように思います。そこでは語り手の「私」と死んだ友人の「彼」とを二つの極として、その間にさまざまな主題が織り込まれますが、「マーラー」の扱いにしても「彼」の留学時の恋人の鴎外的主題にしても、扱いが表面的で、深く展開されている訣ではない。「仮面」の主題にしても、別に同題の詩篇のあること、同時期に『ゴーギャンの世界』のあることを考えると、此処での扱いは如何にも不十分です。それを象徴主義的、つまり断定を避けて示唆、暗示に留めるとか、想像力に拠る読者の参加とかいえば尤もらしくも聞こえますが、どうも何か上手く行っていないという印象は拭い難い。
     では何が上手く行かなかったのか。逆に『忘却の河』では何が、何故上手く行ったのか。書きたい主題は多くあったはずです。形式と方法についても、さまざまな構想や工夫があったに違いない。では、人物についてはどうか。
    多くの人物の繰り返し現われる小説、前の章で脇役だった人物が続く章で主役になるような、そうした小説は、作者の構想のひとつにあっただろうと思います。実際「退屈な少年」がそうですし、遡れば初期には『独身者』のような作品もあります。
     しかし、例えば「退屈な少年」では、父親の再婚の主題―「エゴイズム」への示唆を含む幾らか漱石的な主題―が、父親と家庭教師の娘との間に展開され、そこに息子たちの、兄と弟の心情が絡む。人物が多く、それぞれが主役の面を持つので、話は複雑になります。一方「告別」では主要な人物は「私」と「彼」の二人ですが、それぞれの上に複数の主題が、未消化なまま盛られているように見えます。
     そこで、少し乱暴ですが、仮にこれを前者は、ひとつの主題に複数の主要な人物が絡んだために生じた無理、後者は、ひとりの人物に複数の主題を設定したことによる無理、と考えてみては、どうか。そうした視点から『忘却の河』を読み返せば、例えば最初の章に語られる「私」の過去は、「私」の主題として完結していて、看護師の娘は「遠くから」描かれるものの、後の章で主役として現われる訣ではないという意味で、主要な作中人物として設定されている訣ではありません。そこが「退屈な少年」の父親と家庭教師の娘との違いで、これは、最初の章が本来独立した短篇として書かれたものであれば、当然のことです。続く各章についても、基本的には同じ。すなわち各章で、ひとりの人物はひとつの主題を担う。謂わば「一人物一主題」。短篇連作として長篇『忘却の河』の成立し得た決定的な要因は、此処に在るのではないか、と考えています。

     以上は、ひとつの推測、それも結果から遡ってする説明に過ぎません。しかし従来の「長く長篇が書けなかったが、短篇連作にしてみたら書けた」といった認識よりは、幾らか理解を深めるもののように思います。
     最初の短篇を書いてみて手応えを感じたということであれば、作者自身、こうしたことを意識していた訣ではないでしょうが、ですから、書いたものが残っているとは思えませんが、現在整理の進められている手帖や草稿の中に何らかの手掛りが発見出来れば、面白いだろうと思います。
     反論、批判を含めて、忌憚のないご意見やご指摘をいただければ幸いです。
 ・Kiさん:『忘却の河』感想
  • ・主人公の藤代は福永作品に特徴的な芸術志向の人物ではなく、従って彼が苦しんでいる問題が芸術上の観念的なものでないため感情移入しやすい。また福永作品としては例外的に結末が明るくなっているのも好ましいが、全体的に叙情に流れているという感じは否めない。
    ・当時としては斬新な手法(章ごとに語り手が変わる、会話の「 」がなく、一人称「私」と三人称「彼」が入れ替わる..etc.)も小説の流れと調和しているように感じられ、違和感がない。
    ・主題は、「愛の不可能性」と「罪の意識」ということだろう。愛の不可能性については、可能性があるとすれば一方の死が前提となるということが示唆されている。藤代の自殺した恋人に対する愛、妻の戦没学生に対する愛はゆらがない。「罪の意識」という点では、宗教とは無縁の藤代にとっての罪の意識とはどういうものなのか、また、死にゆく妻を見守りながら抱いた罪の意識が愛ではないかという藤代の認識について考えてみたい。
 ・Miさん:<『忘却の河』創作ノオト>の概略報告
  • ア.下記、源高根旧蔵資料中に含まれる。
    イ.200字詰原稿用紙に、ブルーブラックの細字ペンで横書きに記されている。字は極めて小さい。
    ウ.表紙に、横にwork in progressと2行、縦に「ノオト切抜在中 連作「忘却の河」」とあり、その下に各章の題が明記されている(画像)。全体で11枚(表紙含まず)。第1章、第4章、第7章は2枚、他章は各1枚。他に「全体的plan」1枚。
    エ.第1章を除き、他は全て紀伊國屋製原稿用紙(200字詰 罫は薄いオレンジ)に記されている。ただし、第2章と第7章2枚目のみ、同じ紀伊國製でも罫は薄緑色。
    オ.第1章「忘却の河」1枚目のみ、新潮社の200字詰原稿用紙(罫は薄緑)に記されている。2枚目は同じ薄緑色だが、製造元の明記なし。また、この2枚のみインクの色が黒に近い。1枚目右端には、執筆年月日(1962年10月24日~1963年1月14日。途中、12月17日から20日にかけて書き直し45枚。63年1月初旬、京都にて執筆)が記されている。
    カ.当該原稿は、福永自身により「国文学 解釈と鑑賞」(1977.7)に、ほぼソノママ掲載されている。ただし、4章「夢の通い路」の2枚目(式子内親王の歌を列挙してある)、第7章「賽の河原」の2枚目(部屋、状況、病後、prologue,epilogueの構想)が省略されている。また、別に「全体的plan」と題する1枚(紀伊國屋製原稿用紙 200字詰 罫は薄いオレンジ)があり、登場人物の名前、年齢が時間軸と共に記され、連載された雑誌、題、枚数が明記されている。これは雑誌連載執筆後に(本として刊行前に)記されたものだろう。
    キ.各章とも、用紙右端に執筆年月日と執筆枚数(200字詰)が明記されている(雑誌掲載ではカット)。
    ク.第5章と第6章には、別の題が案として記されている。第5章は「氷の中の葉」/「一枚の葉」、第6章は「喪の春」。

    【感想】
     源高根は「3「解釈と鑑賞」の五二年七月号に「『忘却の河』創作ノオト」が発表されているが、短篇「忘却の河」を書き上げてからなお作者が見ていたノオトや資料というのは、これとは別のものである。右の「『忘却の河』創作ノオト」は、発表するために整理され圧縮された上で清書し直されており、作品が書かれる以前にあったノオトではない。」(『編年体評伝福永武彦』昭和38年の項)と記しているが、今回紹介した創作ノートは、どう見ても清書された字体ではなく、また上記カで記したように、掲載文には省略もあるので、源氏の言う「これとは別のもの」「作品が書かれる以前にあった」ノート、Haさんの言う「創作ノートM」に当るものと推定される。
    その場合、上記オから判断して、Haさん発表の2-1「考察」に於ける「創作ノートA」と「創作ノートM」の第1章は、同一のモノである可能性が高い。
【当日配付資料】
  • ①『忘却の河』参考資料一覧(途中稿) 福永自身のコメント/同時代評/解説文/論文一覧 A4表裏3枚
    ②『忘却の河』について―短篇「忘却の河」と長篇『忘却の河』発表資料 A3 3枚
    ③初出誌「文藝」(1963.12)より「賽の河原」本文末尾。 A3 1枚
    *特に末尾近く、元版本文では初出文に大幅な手入れが随所にあることが判明する。
    ④ 「朝日新聞」 1964年7月6日より「著者と一時間」欄、「愛が不在の現代 まだ残る戦争のキズ」(福永武彦インタヴュー 写真あり)
  •   
     ①Ki、②Ha、③・④Mi

【回覧・閲覧資料】
  • ①6章「喪中の人」自筆創作ノオト複写 
  •  200字詰原稿用紙 1枚
    ②7章「賽の河原」自筆創作ノオト複写 
  •  200詰原稿用紙 2枚
    ・ともに、細字ペンで横書き。「国文学 解釈と鑑賞」(至文堂 1977年7月)掲載の<「忘却の河」創作ノオト>第6章、第7章のオリジナル原稿。
    ・この資料は「源高根旧蔵資料」に含まれていたものである。
    ③ 源高根宛自筆はがき2枚 ァ1963.8.16 源作成の福永年譜に自筆手入れの件など ィ1979.5.10 北里研究所附属病院より「僕は毎日見舞に貰つた花や構内で採つた雑草などを十二色の色鉛筆でスケツチして消閑してゐる」(一部)
    ④ インタヴュー用の「死の島」要点自筆ペン書きメモ(小紙片)
    ⑤ 源高根宛 依頼事を列挙したペン書きメモ(小紙片)
    ⑥ 自筆絵画4葉(水彩で著書『冥府』表紙絵を3案/パステルで抽象画1葉)
    ⑦ 「新興会 創立70周年記念大市会」目録(源高根旧蔵福永関連資料が写真版で掲載。各品の落札価格記入あり)
    ⑧ 2001年9月例会発表資料(「第6章 喪中の人」)
                              ①~⑧Mi
◇第167回例会以前の例会報告
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  •  福永武彦研究会  三坂 剛   メール misaka@siren.ocn.ne.jp
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